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ローカルとグローバル

矢後直規[アートディレクター、グラフィックデザイナー]

自分を未来に引き寄せて考える
卒業して5年たちました。卒業までは今とは違って世間知らずで苦労もない、のんびりした環境でしたが、そんなリアリティももう薄れ始めています。5年前のことさえ忘れかけているのに、6年後の未来を想像することは難しいのですが、自分がどうなっていたいのか、未来へと引き寄せて考えてみることにしました。
SF映画がそうだったように、まだない技術や文化のイメージが映像を通して浸透し、それに影響されて、やがて実現していくような未来のつくられ方がきれいなのではないか。デザインはそうしたイメージを端的につくることができる手段だと思います。
僕たちのつくるものは、まだないもの、「虚像」を可視化することです。たとえば僕がつくったロゴタイプも、そこにさまざまな人の気持ちが乗ることで、未来へと前進する力となるのです。

「グローバル」の中にある「ローカル」との隔たり
「カンヌ・ライオンズ2014(カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル)」に行ってきました。世界3大広告賞のひとつで、今年は97の国や地域から7万6000点もの作品がエントリーされました。中でもグランプリを獲得した、ボルボのトラックのCM映像がすごかった。並走してバックする2台のトラックに男性がまたがっている、言葉ではバカバカしいようなことが、映像でならこんなにカッコよく見せられるのか、と。
この映像は世界中で大ブレイクし、作品をマネた動画が多数アップされるなど、「ビッググローバル・キャンペーン」と呼ばれました。こんなに素晴らしいクリエイションが世界のどこかで生まれて、それは遠い国の話ではなく、僕たちもその広告の対象のひとりなのです。ああ、世界はひとつだな、と感じました。
ただその広告も、僕の故郷の母や兄弟など、少し住む世界の違う人たちには意外に知られていなくて、その「世界」も限定されたものだとわかります。興味や関心のある人しか知らないんですね。そこに「ローカル」と「グローバル」の隔たりを感じます。

人間としての感情をもつクリエイターでありたい
2020年の東京オリンピックは、一部の感度の高い人たちのグローバルではなく、ローカルとの隔たりのないものにしたい。スポーツはノンバーバルで、美しくて、感動的で、世界の誰もが理解できる価値をもっています。プロだけではなく、多くの人が日常的に、生活の一部としてスポーツを楽しんでいます。
では、デザインはどうでしょうか。デザインもノンバーバルで感動的で美しいことはスポーツと同じなのに、生活の一部として。多くの人の心に根づいているとはいえません。
前回の東京オリンピックで中心だったのは「産業」でしたが、2020年は「文化」であってほしい。美術大学の教育は一部のトップクリエターを輩出するのではなく、一人の感情をもったクリエイターを育て続けることに意味があるのだと考えます。
というのも、2040年には機械が人間の知能を超えるといわれています。そんな未来には、機械に負けないような、自分なりの感情に支えられたクリエイションが重要ではないでしょうか。そしてそういうクリエイションこそが、隔たりのないグローバルをつくっていくことができるのだと思います。



静岡県生まれ。
2009年 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、 同年博報堂入社。
2007年 カラーイメージングコンテスト勝井三雄賞など。
2012年 ADC賞プレノミネート、ヤング・ロータス国内選考優秀賞、ヤングスパイクスシルバー
2012年 オリジナルアートワーク「PAPER LEAF」を発表し、250平米のギャラリーで大規模なインスタレーション展を開催。

2014年 ニューヨークADC 賞ブロンズ、D&AD賞in book、TDC 賞ノミネート。