ホーム » Vol.3 »建築学科

建築とアイコン

建築学科 (奥泉 理佐子)

消しゴムスタンプで表現する建築と建築家
最近、東京の吉祥寺駅に隣接して「キラリナ」という新しい商業施設が完成しましたが、多くの人には、「あれ、いつの間にかまた何か建ったな」という感じだったのではないでしょうか。
建築は大きすぎるせいか、人知を超えて突然出現するような感じで、本や雑貨、絵や音楽や映画などに比べると、「つくる人間」のいることが忘れられがちな対象ではないかと思われます。
しかも私たちは生まれたときからずっと「家」に住んでいて、建物から建物へと暮らしています。ですから常にあってあたりまえなもの、と認識している人が多いようです。
それに比べて手作業は、作者の存在を容易に想像させます。学生の私は実際の建築をつくることはできませんから、消しゴムを彫って、建物とそのつくり手をスタンプとして表現してきました。彫ることは、描くことよりも簡略化が要求され、ほんとうに必要な要素だけを浮き立たせることが必要な技法です。

建築にはつくり手の個性が透けて見える
まず、表現したい建築を調べて、いちばん魅力的に見えるところを探します。次に建築家を調べ、特徴をデフォルメしたキャラクターにつくり、建築と作者をあわせた作品とします。
難しい建築理論や構造理論などで建築を紹介するのではなく、つくった人の印象とできた建築物を比べて見ることで、「作者不在」と思われがちな建築に、それでも透けて見える「作者」の存在を感じてもらいたいと考えました。
莫大な人やお金や力が働いてできる「建築」にも、作者の偏った性格や情けなさなど、作者自身が消したくても消しきれなかったパーソナリティが見えてくれば、有名な建築物ももっとおもしろく見えてくるんじゃないかと思います。

建築に、もっと興味をもってもらうために
「レス・イズ・モア(少なさは豊かさ)」という言葉で知られる近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの住宅には、巨匠然としたミースを描いています。しかし、じつはこの住宅は愛人の美人女優の住まいで……ということを知って見ると、これがただ美しい住宅としては見られなくなってしまうでしょう。
また、ル・コルビュジエのロンシャンの礼拝堂には、自ら手を動かしてつくることの好きだったコルビュジエの姿を描きました。
これは今話題の新国立競技場(案)と設計者のザハ・ハディッド。デザインが独創的すぎてなかなか実現できない「アンビルドの女王」の、一切手を出さずデザインする姿を描いています。
有名な建築物や建築家の話には、歴史的事実とともに、信憑性の低いうわさ話や逸話、人々のあこがれなどがないまぜになっています。そうしたものも含めてイメージし、デフォルメした私の作品をとおして、まったく知らなかった建築や建築家が少しでも身近に感じられ、興味をもってもらえればいいなと思っています。