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みんなのチカラになるデザイン

角田 真祐子[デザイナー・minna 代表取締役社長]

デザイナーは世の中の役に立っているか?
突然ですが、みなさんはデザイナーって、世の中の役に立っていると思いますか? ——もちろん役に立っている部分もあるでしょうけれど、私の経験では、「まだまだ」と感じられることが多くあります。それはデザインやデザイナーが、社会にちゃんと理解されていない、ということに問題があると思います。
デザインは「人」とつくるものですから、私もこれまでたくさんの人と出会ってきましたが、奇抜さだけがデザインだと思われていることを何度も感じました。もちろんそれが「カッコいい」と評価されることもありますが、同時に何か近寄り難いものとも捉えられているようです。彼らにとってデザイナーとは、よくわからない、自分とは違う世界の人、なんですね。
美大や業界にいるとなかなか気づきにくいことですが、世の中ではデザインやデザイナーがこんなふうに誤解されているのです。

そのポスターは、ほんとうに必要なの?
それはデザイナーにも責任があるのではないでしょうか。
目に見えるものだけがデザインではなくて、目に見えないデザインも多くあるのですが、そのことが十分理解されていません。デザイナー自身が「目に見えないデザイン」をちゃんと実践することができれば、デザインやデザイナーが、もっと社会に役に立てるようになるのではないでしょうか。
そのためには、「なぜ? と知りたがる気持ち」、「歩み寄る努力」、「社会に機能させる責任」の3つが大切だと考えます。
たとえばポスター制作の依頼があった場合、私はまず、なぜポスターが必要なのか? ほんとうにポスターでいいのか、と聞き返すところから始めます。そうすると、ポスター制作が目的ではなく、たとえば商品の売り上げを伸ばしたいというような、ほんとうの理由が見えてくることがあります。では、その商品自体や売り方に問題はないのか、そんなふうに、依頼者のヴィジョンや想いにまでさかのぼる作業が必要だと感じています。

目に見えない「仕組み」づくりもデザインの仕事
そのためには対話が必要です。相手の業界の用語を学習・理解し、それを踏まえてお互いにわかり合える共通の言葉で進めていく必要があるでしょう。
そしてアウトプットですが、見かけの形だけつくればデザインは終わりと考えるデザイナーが多いのではないでしょうか。形ができ、店頭に並んだだけでは商品ではありません。私は、お客さんに手に取ってもらい、買ってもらって初めて商品になると思います。ですからパッケージはもちろん、店頭ディスプレイや販売員の口上まで、デザインの仕事だと考えています。
2020年の東京オリンピックも同じです。今まであるオリンピックの、その見た目だけを現代風に変えるだけでは、「2020年版」の東京オリンピックにすぎません。目に見えない「仕組み」づくりにまでデザイナーがかかわること。領域を横断して活躍できるデザイナーが増えていけば、2020年のオリンピックにも寄与できるし、デザインはもっと身近な、使える力、役に立つ力になるのではないでしょうか。



神奈川県生まれ。
2008 年 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業、2013 年まで同学科研究室助手勤務。2009 年 長谷川哲士と共にデザインチームminna を設立。
2013 年 株式会社ミンナとして法人化。【みんな】のために【みんな】のことを【みんな】
でやるをコンセプトに、グラフィックやプロダクトなどのジャンルにとらわれず、
領域を越えて幅広くデザインを行う。グッドデザイン賞受賞等、他受賞多数。