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「場をつくる、場を再発見する、場の地図をつくる。」-建築家にできる3つのアプローチ-

伊藤 友紀[建築家]

日常の中に話す場としての建築をつくる
日本にどんな産業があり、文化があり、どんな場所や風景があるのか。2020年の東京オリンピックに向けて、今、日本には何があって、私たちがどんな魅力をもっているかを、自分たちで考え直し、まとめてみるとてもいい機会だと思います。そのための第1ステップとして、日常の中に話し合う場所としての「小さな建築」をたくさんつくっていくことを提案します。
「建築」や「場」をつくることは、決して大げさなことではありません。テーブルがひとつあって囲いがあれば、そこが「建築」になり、話し合える「場」となります。また、日本の建築家集団「アトリエ・ワン」が実践しているように、日常の中にすでにある「小さな建築(場所)」を再発見することもいいでしょう。
そして2020年に向けて自分たちがどんな社会をめざすのか、どんなオリンピックにしたいのか、世界に何を発信するのか、そんなことを話し合い、お互いに共有する「場」とするのです。

見えない行為や成果を建築や地図で可視化する
私も実際に「小さな小屋」を設計し、つくってみました。最初は建築家が100個つくってみる。次は地域の人たちがつくり始める。そんなふうにどんどん取り組みを広げていって、日常の中のいろんなところに「小さな建築」が出現したらどうでしょうか。
子どもたちには子どもたちの、学生には学生の、社会人には社会人の、それぞれの日本があり、考えていることがあります。でも、それがなかなか共有できる場所がないんですね。「小さな建築」は、お互いの考えを話し合い、共有するという目に見えない行為を、象徴的に視覚化するものでもあります。
さらにここで議論されたことを、それぞれの地図にプロットしていこうと思います。2020年の東京オリンピックには、世界中からたくさんの人々が集まってきます。そのとき彼らがどんな地図を手にしているかで、日本の見方はまったく違うものになるのではないでしょうか。議論をもとに地図をつくることで、さまざまな日本の姿が見えてくると面白いのではないかと思います。

身近なことから始める建築的なアプローチ
たとえば「日本酒」というテーマの地図があったらどうでしょう。酒蔵を白地図にプロットしていけば、日本酒という切り口の日本が見えてきて、オリンピックで日本を訪れる人たちの中には、興味をもって訪ね歩く人も出てくるに違いありません。
「小さな建築」では小さな議論が積み重ねられ、性別、年齢、職業など、さまざまな視点から捉えられた日本の姿が提示されます。そのひとつひとつを地図にして、本という形でまとめてみる。あるいはウェブ上に集積して公開する。世界中の人がそこにアクセスできれば、自分の気になる日本の地図を思い思いにダウンロードして、自分自身のオリジナルな地図帳を持って、この日本に来てくれるのではないでしょうか。
オリンピックに向けて建築にできることは、大きなものや新しいものをつくるだけではなく、「小さな建築」から始めるような、もっと身近なアプローチもあるのではないでしょうか。



東京都生まれ。 
2007年 武蔵野美術大学建築学科卒業。
2009年 同大学院修了。
学生時代から「私たちの周りにある環境や芸術や家具や時間や人間の行為など、建築以外のものから生まれる現象のような建築像」について考え続ける。
2011年 伊東建築塾入塾。JIA 全国卒業設計コンクール金賞、武蔵野美術大学学校賞、同大学ゲスト講評会藤本壮介特別賞、同大学院学校賞。
2008年 アジア建築家評議会ARCASIA studentJamboree 派遣。
2011年 社団法人愛知建築士会名古屋北支部建築コンクール佳作入賞。
2014年 Under 35 architect exhibition 出展予定。