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クリエイティブコンテンツ東京。

池澤 樹[アートディレクター・グラフィックデザイナー]

オープンな連携が強い発信力を生む
まる10年ほど、世の中でプロのデザイナーという仕事に携わってきました。2020年まであと6年しかなくて、自分のこれまでの10年を考えると、意外に時間がないなと感じています。そこで2つのキーワードを見つけました。
そのひとつめは、「オープン」ということです。
スポーツ選手は、身体的な能力と精神的な面が両立してこそ本来のパフォーマンスが発揮できるといわれています。それはデザイナーやアーティストも同じなんですね。そのときに重要なのが、僕はオープンなマインドではないかと考えています。
2020年に向かって世界中からいろんな人が来て、さまざまなモノがつくられていくと思いますが、それぞれの専門分野を追求するだけではなく、それぞれの専門家がオープンなマインドを持つことで、いろんな業種や人が交わっていけたらいいのではないか。それによってより新しいものや、より強い発信力のあるものが生まれてくるのではないでしょうか。

領域を超えた「かけ算」で新しさを生み出す
もうひとつのキーワードは「かけ算」。オープンなマインドを持つ人たちの共同作業が新たな相乗効果を生む、ということです。
普段僕たちはクリエイティブな仕事に携わっていますが、意外に狭い視野に陥りがちで、マルかバツか、AかBかの単純な二者択一で判断することが多いと感じています。けれども広い視野で見てみると、その向こうにさらに新しい選択肢が見えてきたりします。業界の中だけでは、視野も接する人も非情に限定されてしまう。そこでサントリーの「白州」というウィスキーの広告では、ビジネスとアートの「かけ算」を試みてみました。
「白州」は森の中の蒸留所でつくられます。彫刻家に依頼して3×4mの巨大な木彫のレリーフを制作することで、写真では表現できない自然を伝えたいと考えました。依頼した彫刻家もアートとデザインを区別しないオープンな方で、その出会いから、一過性ではない、新しい表現の広告が生まれました。

求む! オープンな「かけ算」への参加者
こうした体験から、医学のスペシャリストやシステムエンジニアなど、デザインやアートとは違う視点でものづくりをしている人たちとも、もっと協働していきたいと思うようになりました。
2020年に向けて、そういう「かけ算」をどんどん仕掛けていきたい。ここにいる学生さんも6年後には社会に出ているでしょう。広い社会に出たつもりでも組織や団体はまだまだ縦割りで、そういうところがつながるだけでも、じつはもっと大きなことや新しいことができる。そんなことにも早く気づいてほしい。
オリンピックはグローバルなイベントなのですから、みなさんはぜひオープンなマインドを持って、積極的にこの「かけ算」に加わってもらって、世界に強く発信できる日本、そして東京を、ともに実現していきたいと思います。



神奈川県生まれ。 
2004年 武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業。東急エージェンシーを経て、
2014年博報堂に入社。
主な受賞歴に東京ADC 賞、JAGDA 新人賞、JAGDA 賞、カンヌ国際広告祭 金賞、スパイクアジア 金賞、NYADC 銀賞、ADFEST 銀賞、ロンドン国際広告賞 銀賞、朝日広告賞 部門賞、毎日広告デザイン賞 優秀賞、読売広告大賞 優秀賞、ベストデビュタント賞など受賞。
主な仕事に、サントリー「白州」、東京ミッドタウン「デザインタッチ」、日本郵政「ゆうパック」、東京急行電鉄キャラクターデザイン「のるるん」など。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員、宣伝会議アートディレクター養成講座講師。