芸術文化立国のシンボルとしての「上野の杜」
宮田学長からお話があった「上野の杜芸術文化都市構想」の、特にネットワークについて、もう少しお話ししたいと思います。
この構想ではまず、上野を「芸術文化立国のシンボルゾーン」と位置づけています。現在、上野の杜には約25の博物館、美術館、教育・研究機関があり、本学の大学美術館だけでも、国宝や重要文化財を含めて約2万7,000件、音楽関連などを含めると、14万件に及ぶ所蔵品があります。
そういった資源を世界に向けて開いていくことで、芸術文化のすばらしさを発信していくとともに、新しい芸術文化を生み出す素材として活用していきたいと考えています。その核となるのが、本学正門近くに計画されている「国際芸術図書館」です。
「国際芸術図書館」を核として、アートの都市へ
国際芸術図書館は、英名を「International Resource of the Arts」としています。Resource(資源、資産)という言葉を使っているのは、単に書籍を閲覧する図書館ではなくて、音、形、時間など、そこに収蔵されたすべてを、「芸術素材」として活用していこうという意図を表しています。
国際芸術図書館計画を中心に、上野の杜を「世界最高水準のアートアーカイヴ」として世界に公開していくとともに、その豊かな資源を活用した、世界に認められるような多様性のある芸術の場、「国際的アートダイバーシティ」としていきたい。
また上野は、成田国際空港に直行する京成電鉄のターミナル駅にもなっています。ここを整備することで、世界中の人たちが訪れ、芸術文化に深く触れてもらえるような、「世界最大のアートプラットフォーム」にしていきたい。上野周辺には、国際的なホテルがあることも強みだと思います。
芸術文化に革新をもたらすインキュベーターとして
上野の杜には芸術文化の施設だけではなく、動物園もありますし、周辺には、下町の文化や大衆文化も色濃く残っています。少し足を伸ばせば神田の古本屋街や、ポップカルチャーのメッカ・秋葉原もあります。そういう面白い場所に位置しています。
ですから、新たに何かを創るということではなく、上野の杜がすでにもっている多様な文化や、それぞれの世代が生み出すユニークな文化を、彼ら自身のネットワークも活用しながらつなげていき、それを世界へと広めていきたい。
構想の最後のキーワードは、「グローバルアート、イノベーション、インキュベーター」。つまり上野の杜は、革新的な芸術を生み出すような、豊かな人材を育てる「孵卵器」でありたいと思います。そのためにわれわれ東京藝術大学も、教育・研究機関としての役割を果たしつつ、他機関との連携をいっそう進めていきたいと考えています。