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宮田亮平

日比野克彦[アーティスト/東京藝術大学 先端芸術表現科 教授]

アートとスポーツの融合をめざす
僕は大学のサッカー部に所属していましたが、芸術大学にスポーツ部があることを、いまだに不思議がられます。それくらい日本では、アートとスポーツの間に距離がある。しかし2020年のオリンピックを機に、僕は、その距離を埋めたいと考えています。
オリンピックにはアートプログラムも組み込まれていますが、スポーツが主でアートが従ではなく、スポーツとアート、二つ合わせてオリンピックである、と言えるようにしたい。それが、先進国が開催する二度目のオリンピックの役割だと考えています。
もともとオリンピックは、「美しい肉体」をつくることを目標にしていました。「美」を追求する。その意味ではスポーツもアートも根源は同じだと思います。また、人間の基本的な表現は「お遊戯」と「お絵描き」で、つまりはスポーツとアートなのです。

藝大と都美術館が連携する「とびらプロジェクト」
東京藝術大学と東京都美術館が共同で開催してきた「とびらプロジェクト」も、今年の春で3年目を迎えようとしています。これは一般公募者をアート・コミュニケータ「とびラー」として養成し、彼らを中心にさまざまな企画や催し、プロジェクトを展開することで、都美術館の展示とみなさんの生活をつないでいこうというプロジェクトです。
ここではたとえば、初めて上野の杜を訪れる小学校低学年生を対象として、まずは美術館をめぐる面白さに触れてもらおうという、「Museum Start あいうえの」などを開催しています。
とびラーは2年任期制で、現在80名が在籍、今年の春には初めての卒業生を送り出します。ここから巣立っていった人たちが、将来、NPOなどを舞台に芸術文化のために活躍してくれることを願って、藝大と都美館は一緒になって人材を育成しています。

「ぎふ清流国体」で実現した住民参加の仕掛け
では、アートとスポーツの融合の実例を挙げてみましょう。
僕の出身地の岐阜県で、2012年に国体が開催された時、県の依頼で開閉会式の式典づくりに携わりました。地元の人たちを中心とした、岐阜の未来を考えるチーム「岐フューチャー」を結成し、そこでの話し合いから、「清流国体」にちなんだ船のオブジェを県民参加のワークショップでつくることにしたのです。
約半年かけて、このチームが県内12の地域の人たちとともに、和紙と竹で12のオブジェを制作していきました。もちろん国体はスポーツの大会ですが、制作に参加した人にとっては、自分たちの作品が参加する大会でもあるわけです。さらに国体終了後もそこで生まれたコミュニティは存続し、県にも、それをサポートする新しい部署が設置されるという動きへとつながりました。
そのように、ものづくりや共同作業を通して地域相互のコミュニケーションを深めていったり、次の成長へつなげていく。2020年の東京オリンピックでも、そうしたアートとスポーツをつなぐ仕掛けづくりをしていくべきではないかと考えています。