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宮田亮平

色部義昭[グラフィックデザイナー/東京藝術大学 美術学部デザイン科 非常勤講師]

「日本橋」を二度と再び繰り返さないために
1964年は僕が生まれる10年前で、記録でしか東京オリンピックを知りません。しかし亀倉雄策さんのポスターや、丹下健三さんが設計された代々木の体育館など、デザインの金字塔が生み出された契機であったと記憶しています。その一方で、日本橋の上に高速道路を通してしまうような急速な改造によって、その後の東京の街が、渾沌を突き進んでいくきっかけともなりました。
2020年のオリンピックで、同じことを繰り返すことは、もうあり得ないと思います。2020年のオリンピックは、東京という街を、大人の視点でつくり直していく絶好のタイミングなのではないでしょうか。そこで小さな提案ですが、グラフィックデザイナーとして考えてきたことをお話したいと思います。

銀座を舞台に、わかりやすい公共空間を提案
2012年にIMF国際会議が日本で開催された時、来日する世界の人たちを銀座に誘致するために、公共サインを整備するプロジェクトに参加しました。日本の丁目や番地は入り組んでいて、外国人はもちろん、私たち日本人にもわかりにくい。まずは8丁目まである街区を色分けすることで、わかりやすくしてみました。
銀座の特徴は「ファッションの街」です。ところがビルには巨大なソデ看板がつけられていて、ごちゃごちゃしています。それに競い合う巨大なサインではなく、小さくても目立つ、「タグ」のようなサインを提案しました。電信柱や照明灯に洋服のタグがついているようなユーモラスなデザインで、それを街区の色分けとリンクさせ、相互に関連するようなシステムで構成しました。
これは3カ月間限定の実証実験でしたが、公共空間を機能としてわかりやすくするために考えたデザインでした。

小さな点から街の風景を変える、デザインの力
東京の街は、素材も形状もバラバラなものが入り混じる街です。今回、グラフィックデザイナーとして街区表示板に注目し、そのリデザインを考えてみました。
現行の街区表示板は、書式も書体も、色も形もバラバラで、バラバラな街にバラバラなサインを重ねると、非常に乱暴な印象になります。小さなものですが、こうした小さなものが、街の印象を決定づけてしまうのではないでしょうか。
提案ではヨコ組に統一し、隣接する街区も表示できるようにしています。これにAR(拡張現実)技術を組み込み、デジタルインフォメーションに対応させることもできるでしょう。
こうしたサインを、ふりかけをまぶすように街中にちりばめれば、大きくてモニュメンタルな変更を加えなくても、ちょっとした視覚的な調整で街がもう少し居心地よくなるのではないでしょうか。ふと気がつくと、街の風景が整っている。そういうことも、「デザインの力」でできることではないかと思います。