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芦原太郎

芦原太郎[建築家/公益社団法人日本建築家協会 会長]

「新国立競技場」建築設計案への違和感
東京オリンピックの開催が決定して誰もが沸き立つなか、その事件は起こりました。世界的な建築家ザハ・ハディッドの案に決定した「新国立競技場」の基本条件対して、建築家・槙文彦先生が条件の見直しと情報公開を訴え、多くの人がそれに賛同の声をあげたのです。
確かに決定案は高さ70mに及ぶ巨大なもので、建設費も当初に倍する3,000億円ともいわれ、維持費も膨大。その形も日本文化との関係性が見えない。こんなものをつくっていいのだろうか、後でもてあますのではないかと、いろんな意見が出てきた。
そこで私たち建築関連団体も声をあげて、基本条件の見直しと情報公開要望を出したのですが、その相手先が文部科学省なのか、東京都なのか、日本オリンピック委員会なのかわからない。誰が責任者で、誰が何を決めているのかわからないなかで事が動いているわけです。

専門家が地域の環境づくりをサポートするCABE
成熟社会でのオリンピックとなった前回のロンドン大会では、大会後のことを考えて施設はできるだけ仮設とし、必要最低限の恒久施設は、大会後に地域で使えるように考えられました。そういう工夫で、大きな成功を収めたと評価されています。
調べてみるとイギリスには、オリンピック以前からCABE(Commission for Architecture and Built Environment/英国建築都市環境委員会)という組織があり、たとえば街に建物を建てる時に、このCABEの専門家が市民にわかりやすく説明し、評価をしてくれるのだそうです。市民はそれに基づいて、その是非を判断する。あるいは市民の「こんな建物がほしい」という希望の実現を専門家としてサポートしてくれたり、建築知識やまちづくりのワークショップを開催するなど、「市民のまちづくり」を総合的に推進する政府の機関なのです。もちろんオリンピックの建築にもこのCABEが大きく関与して、成功に導きました。

専門家と市民、行政が一緒に考えるオリンピックを
そこでわれわれは日本版CABEとして、政府の出資による「建築・まちづくり支援機構」をつくり、そこからの人材や資金が、専門家と市民と行政の三者でつくる地域の「まちづくり協議会」をサポートするかたちにしていきたい、と考えています。
今、新国立競技場を始め、他の施設やインフラの整備も進みつつあります。これをオリンピックだけの問題にしないで、その後も含めて、自分たちの身近な東京をどうするのかという視点で考えたい。そこには住民参加はもちろん、専門家の適切な意見と、行政の推進力を加え、この三者が一緒に進めることが必要です。
そのためにも、オリンピック全体のデザインをトータルにマネージメントできる機構を、この2月に立ち上がるオリンピック組織委員会の中に、ぜひつくっていただきたい。その第一歩として、われわれ建築家協会は、今、東京都に「建築家アドバイス機構」の設立を要請しているところです。