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ムラタ・チアキ

ムラタ・チアキ[プロダクトデザイナー]

東京オリンピックのグランドデザインを
オリンピックではグランドデザインを問う者がいないと、最終的に今までのやり方と同じで、単年度予算だとか、省庁の担当官が春になるたびに移動するとか、入札の仕組みだとかに影響されるのだろうと思います。
今までと同じ方向では、コンサバなものになってしまう。システムを描いて、その中で動くマンパワーというものを培っていかなければと思います。
イギリスのサッチャー首相は「今のイギリスがあるのはビートルズのおかげだ」と言った、と聞いています。彼女がソフト産業立国構想を掲げ、韓国の金大中首相も続きました。マンパワーを育てる、これはソフト産業立国構想というものの中には必ずある発想です。それをブレア首相が引き継ぎ、実際に実現させて、強いポンドをつくったのです。

式年遷宮はグランドデザイン
日本のオリンピックというものを考えたとき、かつてあった国家事業として、式年遷宮が思い浮かびました。天武天皇が考案をしたのですが、奥さんの持統天皇が亡くなられたときに行ったのが第1回目。そこから1300年が経って、今年やっと63回目が行われたのです。日本が生んだ最古の仕組みが、まだ続いている。
こういう大規模な国家事業が存続できたのは、世界に誇れるグランドデザインがあったからです。
第1回目のお祈りから、苗を植えて、木を育て、御杣山(みそまやま)という木を切り出すための山ができます。百年杉、四百年杉を切り出して、組み立てて、20年ごとに社ができる。そのときに解体した前の社が鳥居になり、廃材はお札になっていく。そういったリサイクルの仕組みが完璧にできていました。式年遷宮が持っているサステナブルな考え方は、日本の根底にある美学であると思います。
小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが、亡くなる前に言った言葉があります。これからは、華美ではなく、恒久の美に価値を置く時代が来るだろう。彼はそういった美が好きで、日本に住み着いたわけですね。日本固有の美学をぜひ世界の隅々に知らせたい、それが彼の思いだったのです。

空間と間合いでもてなす
私は今回のオリンピックが、サステナブルな美学を世界に啓蒙していくチャンスだと思っています。日本の心を体感できる「体感都市・東京」を実現できれば、またとない機会になると思います。
言葉でもてなすのではなくて、空間と間合いでもてなす。例えば「縁側」というものは、自然と一番面している場所という意味です。そうした空間のあり方を伝えていければ、今回のオリンピックは成功すると思っています。