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久田邦夫

久田邦夫[アートディレクター]

「あなたはどんなオリンピックにしたいですか?」
私にとってオリンピックは憧れです。実は私もトライアスロンというスポーツをやっていて、それが高じて、世界選手権に出てしまった過去まであります。オリンピックにできれば出たいけれど、年齢も年齢ですし、出ることはかないません。

さて、皆さんは「東京2020」をどんな大会にしたいですか。これから、グラフィック、プロダクト、サイン、さまざまなデザインがつくられると思います。皆さんに考えていただきたいのは「どんなオリンピックにしたいか」です。それが出てくれば、必然的にどんなデザインをしていけばいいのか答えが出てきます。そのために、われわれはビジョンをつくらなくてはいけません。

ロンドン・オリンピックのデザイン
ここに、ロンドン・オリンピックのさまざまなデザインを集めました。テレビに映っていないゲートや競技場などは、初めて見た人も多いかもしれません。
その前の北京オリンピックの閉会式のときに、ユニオンジャックがペイントされたダブルデッカーのバスが出てきました。その上の蓋が開いたとき、ジミー・ペイジがギターを弾きましたね。北京オリンピックで一番感動したのがこのギターでした。たまらなかったです。
ロンドン・オリンピックの閉会式では、ポール・マッカートニー、デビッド・ボウイが現れました。前回の閉会式から、ここまで繋がったんです。もうここまで考えていたんじゃないかと思いました。
ロンドンのロゴマークを見ると、すべてが直線でつくられていても、全体は不定形です。ピンク、そして黒というビビッドなカラーは、まさしくロックじゃないかと。マークとデザインを合わせた競技場のコースに打たれた8番、9番という曲がった文字にも、なるほど、ロックスピリットを感じました。

ビジョンをまとめ具体化するためには
それに対して、私たち東京はどんなビジョンで取り組むのか。具体的なデザインを考える前に、ビジョンをまとめる必要があると考えています。
あくまでも私の考えですが、1つの候補として、世界に誇れる日本のビジョンは 「粋」だと思います。日本には、粋で「いなせ」な文化があります。その心意気で世界の人々をおもてなしできれば、素敵なオリンピックになるのではないでしょうか。
そのビジョンを具体化するためには、仕組みづくりが必要です。日本は縦割り社会で、横の連携がとても悪い。デザイン界もグラフィック、プロダクト、サイン、それぞれのデザイン協会で活動しています。
オリンピックを成功させるために、われわれデザイン界も、縦割りから横割りのコミュニケーションをとり、ビジョンを共有していくのが大切です。デザイン界が1つにまとまり、さらに音楽、アート、工芸等も一緒になって、クリエイティブコミュニケーションとして、世界に発信していくスタイルをつくっていく必要があると考えています。

新しいクリエイティブをつくる仕組みづくりを
1964年に東京オリンピックが開催されたとき、諸先輩方はとてもお若く、皆さんはその後、日本のデザイン界をここまで支えてきた方々だと思います。これから半世紀後、日本のクリエイティブを組織していくため、いいかたちをつくっていくために、ぜひ若者にチャンスを与えてあげてください。諸先輩方の意見をいただきながら、今回のオリンピックを契機に、共に新しいクリエイティブをつくっていく。そんな仕組みづくりができたら、とてもいいオリンピックになると思っています。
みなさんもどんなオリンピックにしたいか考えてください。素敵なオリンピックになるよう、皆さんの心持ちと、われわれの力を併せ持って、クリエイティブの結集を図りたいと考えています。