ホーム » Vol.1 » 廣田尚子

廣田尚子

廣田尚子[プロダクトデザイナー]

デザインが得意とする横串展開でバリアフリーの充実を
東京は正確に機能する都市として、世界に誇れる質を持っています。しかし、バリアフリーに関しては、その質はまだ確かとは言えません。 7年後、オリンピックとパラリンピックが開催されるということで、たくさんの障害を持った方、外国人が競技を見に来られます。その滞在が快適で、心豊かにすごせるよう、バリアフリーの充実は必然です。
オリンピックとパラリンピックの期間後にも、最新鋭のバリアフリーが残り、整うために。20年、30年、その先でも通用する、先進的な仕組みを考える必要があると思います。
現状である問題の改善としてスタートするのではなく、高いビジョンを掲げ、複数の軸を構成し、それをどこまで達成したらよいのか、という考え方に基づくこと。本質を捉え直した進め方が必要です。そのためには、管轄をまたいで連携する、デザインが得意とする横串を差して展開するような、アグレッシブな計画が必要です。

バリアフリーの定義の再構築を
実際に提案するバリアフリーは、どのようなことでしょうか。それは「バリアフリーをおもてなしとして捉える」考えに基づくものです。
おもてなしは一般的に、温かい心で接待するというイメージがありますが、もてなす行為で相手が喜ぶと、もてなした側もあたたかい心が生まれるもの。そこには、気持ちの行き来、リレーションがある。おもてなしとは、相互関係だと考えます。
環境設備が整っても、街中の人の行動や言動が、心のバリアをとかなければ、社会が大きく変わっていきません。バリアフリーの定義を新しく構築していくことが大切です。
バリアフリーをおもてなしとして捉える、あるいは、おもてなしはバリアフリーともつながっている。
今の時代は、共感が大きなエネルギーを呼びます。おもてなしという、誰もが心に留めている言葉を使うことで、同じ目線でバリアフリーを考えていく。そうすれば、より人間的なバリアフリーを新しく発想していく仕組みが成長するのではないでしょうか。

デザインが貢献できること
人を中心に据えて、本質を見える化して、分かりやすい形で解決して、それを使えるようにするというのが、デザインです。ビジュアルコミュニケーション、コトのデザイン、プロダクト、環境。それぞれの分野が1つのチームになり、多方面と連携することで、多くの人の共感を呼び、大きなムーブメントとなるようなことが理想です。
具体的には、ユーザーとなる障害者や外国人に開発の最初の段階から参加していただき、あるべき姿を発想することが望ましいと考えます。
バリアフリーは現在、交通機関やサイン計画での取り組みが中心になっていますが、都市生活を自然に、快適に進めることは何かということをゼロから洗い出すことが肝心です。機材設備の投入や効率アップだけでなく、人の心が響き合うような解決策を目指す。この過程で多くの問題提起がなされ、今の段階では考えつかないような新しい領域が生まれるかもしれません。

7年後のオリンピックを目指して、日本人の意識が変われば素晴らしいと思います。人を思い、美しく機能する、東京。そんな都市を目指して、デザインはきっと貢献できるはずだと考えます。