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羽藤英二

羽藤英二[交通工学研究者]

東京の次なる都市像の構築を
過去から未来、未来からもうちょっと先の未来を見据えたとき、これから東京がどう変わっていくのか。私は前回の東京オリンピックのときにまだ生まれていませんが、専門であるアーバンデザイン、モビリティデザインからお話をします。

ここに『東京計画1960』というものがあります。これは、建築家の丹下健三さんによって描かれた、半世紀以上前の東京の将来ビジョンです。街の混雑問題、満員電車。こういう問題を改善するために、血管のようなネットワークを増強する、あるいは混雑を解消するために海に新都市をつくる。そしてそれは、東京により「速い移動」を外挿することで、都市の問題を解決しようというビジョンでした。
こうした時代感の中で、首都高速道路がつくられ、タルコフスキーが未来都市の映像として撮影に来日するなど、未来都市の象徴として東京がデザインされ、新しい生活者の未来像が描かれたと言っていいでしょう。これが、前回の東京オリンピックのもつもうひとつの意味だったのではないかと思うのです。

一方、2020年にオリンピックが開かれると、私たちの東京はどうなっていくのでしょうか。2008年から2053年まで、東京のいわゆる山手線ネックレス、池袋、上野、新宿、東京、渋谷、品川の駅勢圏を見て分かるのは、それぞれの駅を通っている郊外から都心に向かう流動人口がどんどん縮小していくことです。非中心化が進むといっていいでしょう。
これから、2020年を超えて2050年に向けて人口減少の時代に突入していく。東京には通勤で移動する「ホーム→ワーク→ホーム」、一日に2回の移動をまかなうための世界一の公共交通ネットワークが整備されています。ただ、ひょっとしたら、新しいICTの技術を介して、そのありようが変わってくるかもしれない。その時代に向けて、どういう都市像を構築していくべきなのでしょう。

速い交通から、遅い交通へ
ニューヨークという街も、この1世紀の間、速い交通をできるだけ都市に外挿する取り組みを進めてきました。でも、今は高速鉄道の上を公園化した「ハイライン」のような新たなモビリティデザインを、都市の中に取り入れようとしています。「遅い交通」が実現することで、人と人が集い、ニコニコ笑ったり、外に座ったり、楽しんだり。生活のリズムを調律してゆったり送るといったことが都市デザインが実現しています。
小さくて、混在していて、旧くて、遅い移動。舟運や旧街道の跡が谷戸や台地などの旧い地形を下敷きに抜けていく、昔懐かしい江戸時代からの暮らしの文化が積層する東京の中で、もう一度そういうものを継承していくためにも速い交通から、遅い交通へ。それを今、オリンピックとともにつくり上げることで、将来に向けた東京の都市像を示せないだろうか。これが私の意見です。