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原 研哉

原 研哉[デザイナー]

GDPは1964年の17.4倍に
東京オリンピックという魔法の言葉が、過去のものではなく、未来に再来する。これは素晴らしいことだと思います。
ここにある図は、1964年と2012年における、日本のGDP(国内総生産)を比べたものです。およそ17.4倍になっています。
1964年にオリンピックがやってきたとき、日本の人たちはいったい何を考えていたのか。そして、経済大国になったけれども、いろんな課題を抱える今の日本が、どんなふうにオリンピックを迎えたらいいのか。この図を見ながら考えました。

伝統や美意識を思い出し受け継ぐこと
日本は成熟した国になりました。経済的にも、文化的にも、いろんなテクノロジーを携えて、世界最大の都市として、東京はすでに存在しています。だからこれからやるオリンピックというのは、国威発揚とか、これでもかという演出で、たくさんの花火を打ち上げるようなオリンピックではないはずです。世界が今後、本当に必要とするであろう慎ましさや協調、本当の意味での感動を生み出していけるセレモニーを、きちんと担えなくてはいけません。
そのためには、日本の中にある伝統や美意識を思い出すことが必要です。日本のデザインはそういうものに裏付けられて成熟を見せているはずです。それらのものを受け継ぎ、冷静に、緻密に、丁寧に考えなければいけないと思います。
日本の素晴らしい才能たちが、きちんと適材適所で働き、素晴らしいオリンピックをつくっていけるために、デザイナーたちから社会に提言していかなくてはいけません。オリンピック組織委員会の中に、デザインの組織をきちんと組み立てていくことが大事だと思います。

日本の資源にすべきもの
セレモニーとしてのオリンピックを成立させると同時に、今後の社会のために何をやるべきなのか。アジアの諸都市が興隆してきましたが、東京は、まだ世界のトップクラスの都市として、さらなる発展を遂げていかなくてはいけません。
1960年代以降、日本は国土を工場のように使ってきました。だから相当、疲弊しているし、汚れてきています。
これからの日本は、モノをつくって輸出するだけではなく、行くべき価値のある、素晴らしい文化を携えた国として、独自の輝きを持つ観光国になれるはずです。日本は国土の大半が森です。復元力の高い温帯モンスーンの中にあり、素晴らしい自然環境があるのですから、それらを資源にできます。ハイテクノロジーも、文化も、自然もある、素晴らしい国として、さらに発展していかなければなりません。

2020年をきちっとやり切ることで
招致の時の「おもてなし」という言葉を、決して方便としてではなく、ちゃんとやるべきだと思います。スタジアムをどうするか、ポスターやシンボルマークをどうするかということだけではなく、外から日本に来た人にどういう体験をしてもらうのか。あらゆる瞬間、いろんなサービスが感動を生み出すチャンスです。
それらをちゃんとしたレベルで磨き直して、東京というのは素晴らしい街だと自他ともに再認識する機会になればと思います。せっかくやってきた東京五輪ですから、きちっとやり切ることで、もう一度、力を付けた新しい日本を見てみたい。
2020年を契機に日本はいい方向に進んだな、と分かる機会にしなければいけない。1人のデザイナーとしてそう考えています。