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深澤直人

深澤直人[プロダクトデザイナー]

「ディシプリン」という不思議な言葉
「美しい都市、きめ細かいもてなし。優しい人柄。美しいスポーツの祭典。」ここに4つの言葉を挙げました。

デザインウィークで海外からたくさんの人が来たようなとき、私たちは“How do you like Japan?(日本のどこが好き?)”と聞きますよね。そして、ビューティフル、ワンダフル、クリーンとかいろいろな答えが返ってきます。それらは全部が「美しい」という意味です。
いろいろな感想の中で、1つだけ不思議な言葉に出会いました。それが「ディシプリン」です。英和辞書を引いても、訓練されているとか、就労されているとか、あまりピッタリとくる訳がない気がします。
日本という国では、サービスや製品の質が、対価として置かれる貨幣価値とは関係なく、非常に高いレベルを持っています。そういうものをどのように伝承して、つくり上げているのか。その仕組みがハッキリと分からない国です。それを最もはっきり示しているのが、「ディシプリン」。いい言葉だと思いました。

日本の「美しさ」とは?
自分はいつも、美しい、やさしい、きれいということを、仕事で考え続けています。日本の「美しさ」とは、京都の雅な美しさを言うのか、すみずみまで掃除されている美しさなのか。よく分かりません。
それなのに全部できている。建築でも、壁の中とか、床の下といったものに手を抜くことはないのです。安くつくるためなら、本来は手を抜く、裏でいい加減にするということが起きてもおかしくはないはずです。
教育の中で「そういうことをしてはいけない」と訓練するからではなく、今の若者も自然に受け継いでいることです。
宗教や武士道の影響だとする研究もあって、それは確かなのかもしれないですが、なかなか分からない。外国から見ると、ある意味、非常に不思議な感じがする国です。
それは、スポーツでもそうです。ただ記録を出すのではなく、美しさを競うようなところがあります。例えば、走り幅跳びでも、きっちり何歩で飛んで、かつ長く飛んだ方が美しい、というところがある。そういったことが「ディシプリン」だと思うのです。

「ディシプリン」と評価される祭典に
日本はきちっとしている、ちゃんとやり抜く、といったことを誇りにしている国ではないでしょうか。ある国に行けば、オリンピックのスタジアムはいつまでに完成するんだろうとか、お店をオープンしなくてはいけないのにまだつくっている、ということがありますが、日本ではまずあり得ません。

そういう風変わりに見える日本の「ディシプリン」を、きちっと見せていくことがオリンピックという祭典で重要なファクターではないかと思うのです。それは目に見えない、もてなしとか、やさしさかもしれません。それらを、結局は「美しい」と言っています。
また、美しい都市という表現で、人工的につくられた場所のことを表現したりします。こうした美しさすべてが集大成となり、美しいスポーツの祭典となったとき、やはり日本らしい「ディシプリン」だと評価される。そういうオリンピックになれば成功だと思います。