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[シンポジュウム]
2020年東京のパブリックデザインを考える

モデレーター:岸井隆幸(日本大学理工学部土木工学科 教授)
パネリスト:サム・グラム(ラコック・グラム・ステュディオ 創設者兼クリエイティブディレクター)
田中一雄(株式会社GKインダストリアルデザイン 代表取締役社長)
永井一史(株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長)

シンポジュウムの冒頭では、その主題となる「オリンピックにおけるパブリックデザインの果たす役割」「パブリックデザイン共通整備の意義と課題」「デジタル化、高度UD化、環境対応など新たな取組みの可能性」「都市ブランドとし戦略の一環としてのパブリックデザイン」について田中一雄氏と永井一史氏によるプレゼンテーションが行われた。

<プレゼンテーション>
田中一雄
昨年の10月にサムさんの事務所でレジブルロンドンの話を聞き、これは日本に伝えなくてはいけないと思いました。
東京ではもっぱら建築の話ばかりですが、やらなければいけない大事なことがあるのです。それに誰も気づいていない。このフォーラムは日本のデザイン団体が集まって、「東京にいいものを残したい」「どうしたらいいものをつくる仕組みができるのだろうか」ということを訴えるために活動をしています。今日のこのシンポジュウムが、まさにそういう機会になればと思っています。
それでは、公的サインに限らず私たちがやらなければいけないことが、実はたくさんあるという例をいくつかご紹介します。
まず、過去のオリンピックが何を残したのかということをおさらいしたいと思います。
1964年の東京オリンピックでは、デザイン室が設置されました。そこで大会用仮説サインもデザインされ、ピクトグラムが最初に使われました。また、東京の街に目を向けてみますと、古くから各家庭の前にコンクリート製のゴミ箱がありました。1960年にニューヨーク市長が来日した際に、これをやめた方がいいということを助言します。そのことによりあのブルーのポリバケツが生まれたわけです。当時景観という意識がないままに、鮮やかな色彩のものが定着してしまいました。選び方を間違えると、悪しきデファクトスタンダードが生まれてしまうということです。
1972年開催のミュンヘンオリンピックでは、今では普通に見かけるスチールのメッシュベンチが開発されました。「オリンピア」という名前がついています。非常にドイツ的な思考が反映されたベンチですが、これもオリンピックを契機としてつくられたものです。
そして2000年のシドニーオリンピックでは、国内のストリートファニチャーを包括的に整備しました。アルミ素材で様々な都市の装置、照明や信号、サインなどが一体的に美しく整備ができるというシステムをつくりました。これは今、いろいろな都市に普及していますけれども、このときの開発によって新しいストリートファニチャーが生まれ、それが街の風景をきれいに整えていくということにつながっています。バスストップや売店、インフォメーションセンターなども整備されています。
ロンドンオリンピックは、サムさんの報告の通りですが、さらに画期的なことが行われていました。ご存知のようにロンドンは世界で最初に地下鉄をつくった街です。そのため古い駅が多く、すべての地下鉄の駅をバリアフリーにしていくということには限界がありました。そこで考えたことが、すべてのタクシーにバリアフリーの対応をしてもらうということです。障害者の方にタクシーパスを差し上げても、トータルのコストは抑えられる。こういう領域を超えた判断が日本でできるのかということも考えなくてはいけない課題のひとつです。また、ロンドンのサインはとても分かりやすい。まず色のラインにより、サインの存在を気づかせ、必要な人に読ませるという考え方です。日本の場合は、サインは遠くからでも読めるべきということになってしまうので、その考え方の違いも意識しないといけないと思います。
では、東京では何を考えたらいいのでしょうか。歩行者用のサインについては、もっと多くの誘導情報があるべきです。その他に、サムさんのお話にあった情報の一貫性、UD化、デジタル化など。それから大会開催時の仮設対応も必要だと思います。そして、多言語対応ですね。ロンドンの地下鉄では、2000年頃からですか、17ヶ国語の表記をしており、切符が日本語で買えます。また近年パリのフランクリンルーズベルト駅では、日本語とロシア語と中国語とアラビア語で表記されていました。アルファベットを使っている国の人は読めるだろうという考え方です。むしろ言語体系がまったく違う人に対して表記してあげようということです。これも今後考えなくてはいけないことだと思います。
バスストップも大事な交通拠点です。バスストップをどうつくっていくか。それからデジタルサインをどう絡めていくかということも大きな課題です。パリでは盛んに実験が行われていますが、デジタルサインは1人が占有してしまうという課題があります。
そして、何より重要なことは「デザインの統括管理」ということです。これはいくつかの方法があるかと思います。オリンピックに際しては、プロデューサーオフィスのような組織がいるのではないかと思います。2005年の「愛・地球博」ではプロデューサーオフィスを事務局長の直属組織として設立しています。十数名の様々な領域の専門家が、横断的に博覧会のすべてのディレクションを行いました。私はサインとファニチャーをやらせていただきましたが、いろいろなことを大きな目で横断的に見ていくという仕組みづくりがオリンピックには必要だと思います。
また、横浜市には、草分けとしての都市整備局企画部都市デザイン室があります。アーバンデザインを横断的に見ていくシステムです。1999年に横浜市全域のストリートファニチャーの基調をつくるという仕事をしました。風景こそが主役であるという考え方でスタンダードをつくり、道路局、市民局、清掃局、緑生局、(当時)警察など横断的にデザインを統一するということです。2002年からは、その後続のプロジェクトとして、標準型のサインシステムをつくっています。
以上のように、統一的にデザインしていくということと、優れたデザインを生み出す仕組みをいかにして構築していくのかということが重要だと思います。それと同時に長期的視点でのコスト判断も必要です。これは非常に難しいものですが、たとえばさっき言ったロンドンのタクシーのようなことです。そしてユニバーサルデザイン、環境への問題、さらにはICTの活用も見極めていかなくてはいけないわけです。
今こそ東京に「横断的都市デザインの仕組みづくり」が必要ではないかと考えます。

 

<プレゼンテーション>
永井一史
私は少し違う視点で、パブリックデザインへのアプローチをご説明したいと思います。パブリックという視点で言いますと、都市景観や交通機関、さらに都市機能のデザインということも含まれるのではないかと思っています。東京らしさを価値としてどう伝えていくのか。海外の方へもそうですし、都民に伝えていくことも重要なことではないかと思います。
また、パーマネントなことばかりではなく、イベントや体験プログラムなど、特に海外からの観光客がそのようなことも含めてトータルに東京らしさを経験できる視点が重要です。
観光地としての東京ブランドを世界に知らせ、世界有数の観光都市にするということが東京都の大きな試みとして進んでいますが、当然都市間競争があります。そのときに東京の魅力を我々一人ひとりがきちんと認識し発信していくことが、重要なことではないかと思います。
「東京の魅力は?」と聞かれて即答できる人は少ないと思いますが、魅力のひとつに多様であるということが挙げられます。ではその多様性はどこから来ているのでしょうか。東京は、日本を代表する都市であり、歴史ある日本の文化の集積によって形づくられているという側面と、江戸の町人文化によってその骨格がつくられているのではないかと思います。多様であるからこそ、その価値を集約し編集して発信していく必要があるのではないでしょうか。
そこで東京の価値を5つに集約してみました。これは東京都が設立した「東京ブランド推進会議」で検討し、東京都がまとめたものになります。それは「Unique/ユニーク」「Excellent/エクセレント」「Exciting/エキサイティング「」Delight/デライト」「Comfort/コンフォート」の5つです。
まず、ユニークです。「独自の伝統と先端の文化が共存し集積する東京」ということです。東京は異文化の受容性があり、あらゆるものが集積されています。例として歌舞伎座ですが、日本的な様式の建築のすぐ後ろに近代的なビルが建っていることは東京的なユニークな景観ではないかと思います。そうかと思えば、隅田川に屋形船、江戸の文化を継承するような楽しみも残っている街でもあるということです。
次にエクセレントです。「すべてが革新的で洗練されたクォリティを持つ東京」ということです。製品のクォリティは世界的にも高い評価を得ていると思いますが、職人たちのものづくりの技ですとか、あらゆる「もの」や「こと」に繊細な感性と洗練された美意識が息づいているというのが東京らしさ、日本らしさであると思います。
3つ目はエキサイティング。「常に変化しダイナミックで活力がある東京」ということです。代表的な例では、渋谷のスクランブル交差点。また東京の夜景も魅力的でエキサイティングを感じさせます。
そして4つ目がデライトです。「おもてなしの心や親切、誠実さに溢れている東京」ということです。おもてなしは東京オリンピックのキーワードでもありますが、それも東京の魅力になると思います。雨の日にショッピングバックにビニールを被せてくれるような細やかな心遣いですとか、素敵なパッケージなどが挙げられると思います。
最後にコンフォート。「あらゆる物が安心、正確、便利で快適に過ごせる東京」です。発達した交通網、公共交通の正確な運行ですとか、清潔なトイレ、24時間オープンのコンビニエンスストア、点字ブロックなどもコンフォートといえるでしょう。
これらをブランドコンセプトというキーワードにまとめています。それは「伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街」です。
では、東京ブランドのためのパブリックデザインということについてですが、ここで重要なことはどこまでがパブリックデザインの領域であるのかということです。海外からの旅行者を例に見てみます。大まかに言いますと、情報収集をして東京に到着。サインを見ながら移動し、ショッピング、観光名所を見て帰るというパターンがあります。ここで大切なことは、パブリックデザインはつながっているということです。自分が見たものや体験したことなどすべてのことから東京の価値を感じたり、便利さを感じたりすると思います。
つまり、単体のパブリックデザインと縦に切るのでははなく、横軸の視点が大事であると考えます。パブリックデザインの領域を総合的に考えていくという視点が、ブランディングでは重要なのです。
もうひとつの課題である「パブリックデザインはハードだけなのか」ということですが、東京都の依頼でヘルプマークをつくる仕事をしました。これは内部障害を持つ方が公共交通機関などで席に座っているときに、自分には障害があるということを表示するものです。例えば、このマークを広げて考えられないかと。ハンディキャップのある方が日本に来られたときに、自分にはサポートする意思があることを表すために鞄などにつけることで、その意思表示をすることができるといいのではないしょうか。サインやインフラなどのハードに人の気持ちが加わることで、パブリックや公共の場がより豊かになるのではないかと思います。
ですからパブリックデザインはハードだけなのかという問いに対しては、ハードだけではなく人の行動というデザインが掛け合わされることが、重要な視点ではないかと考えています。
まとめとしては、先ほど紹介させていただきました東京ブランド推進会議の活動の中でウェブサイトを立ち上げているのですが、サイト上でライゾマティクスの齋藤精一さんとチームラボの猪子寿之さんに対談をしていただいています。その対談で猪子さんの「日本語がわからないと日本の都市を楽しみきれない。ノンバーバルなコミュニケーションやアクティビティを広めていくことが、東京を魅力的にする重要な視点ではないか」という言葉に興味を持ちました。そういう意味では、東京オリンピックのレガシーのひとつであるピクトグラムも重要だと思いますし、他にも多くの視点でノンバーバルな視覚情報を展開していけると、東京はもっともっと魅力的な街になれるのではないかと思います。

 

<ディスカッション>
岸井隆幸×サム・グラム×田中一雄×永井一史

岸井:ありがとうございます。それではサムさんに、お2人のプレゼンテーションをお聞きになったご感想をお話いただけますでしょうか。

サム:田中さんのプレゼンテーションで、デザインのコーディネートにより都市の魅力を向上させるというお話がありましたが、ロンドンではストリートファニチャーやサインシステムは、広告収入など資金を得ているのが実情です。日本においてもそれができるのか、またどこから資金を調達できるのかを考える必要があると思います。公衆トイレやシェルター、ストリートファニチャーなど、広告を主体に考えて広げるという方法もあるのではないでしょうか。
そして永井さんのプレゼンテーションについてですが、東京の地図を開いたとき、「東京ならではのもの」また「東京にしかないもの」があると思います。これをアイデンティティと考えることが大事です。永井さんがおっしゃった5つの価値にしっかりと焦点を当て、それをデザインに取り込む。きれいにさえすればいいとういことではなく、価値をデザインに取り込むことが大事なのです。
注意すべきことは、ビジュアルアイデンティティは時代により変わるというということです。ですから、何を変えるかということを考える必要があります。そして社会が何を求めているかを知らなくてはいけません。東京ブランドをどのように打ち出すかが重要であると考えます。

岸井:もうひとつお聞きしたいのですが、永井さんが指摘をされたハードを超えたデザインについてです。レジブルロンドンでもこのような考え方はあったのでしょうか。

サム:レジブルロンドンは、システムとしてスタートしています。どうしたら読みやすいかということが、デザインワークの基礎です。またストリートで誰かに話しかけるとき、人はどういう訊き方をするのかといったコミュニケーションについても考えました。コミュニケーションはどこでも生まれますし、様々な形があります。たとえば、視覚障害者の方は音のコミュニケーションを必要とします。それらを使えるシステムにすることが大事であり、そのためにはリサーチが必要です。使われるものなのか、そうではないのかをしっかりと検証することで、新しいアイデアが生まれるのです。

岸井:田中さんにもお答えいただきたいのですが、パブリックデザインはハードだけなのかという永井さんの問題提起について、いかがお考えでしょうか。

田中:もちろんハードだけではできません。ソフトは必要です。そして「東京の魅力って何だ」ということが分からなければパブリックデザインはできませんので、東京の見直しが必要であると考えます。
いわゆる都市デザインというハードだけではなく、どのようにしてソフトとコミュニケーションを取っていくのかということを考えることが必要だと思います。日本の東京だからこそ考えなくてはいけないことだと思います。

岸井:では、永井さんにお聞きしたいのですが。「東京の魅力は、多様性にある。パブリックデザインはハードだけではないはずだ」というお話でしたが、ハードについては共通のものを押し付けない方がいいのではないかということでしょうか。

永井:いいえ、そういうことではありません。ですがハードには膨大な費用がかかります。比較的に簡単に始められるところから始めるというアプローチもあるということも、ひとつの提言ではあります。
ですが、思いつきでいろんな試作をするのではなく、本当の課題を突き詰めるということからスタートするということは大事で、それが結果としてハードとして昇華されることや、ソフトとして昇華されること、問題をみんなで認識するということが重要であると思います。

岸井:問題意識を持ち、リサーチもして、課題を明らかにしていくとサムさんがおっしゃったことは大事だけれど、実現するにはお金がかかるし、セントラル・ボディのようなイニシアティブを取っていく人も必要です。東京ではどのような仕組みがいいのでしょう。田中さんから仕組みづくりのご提案がありましたが、東京は2020年だけを目指しているわけではないと思います。もう少し具体的なイメージをお聞かせください。

田中:行政トップに意識を持ってもらいたいと思っています。日本では10年ほど前までバスストップに広告をつけて運営するということはできませんでした。ですが、当時の横浜市長である中田氏が「やるぞ」と言ったことで実現したわけです。また日本の縦割りは誰もが知るところですが、ヨーロッパではアーバンデザイナーの方が市長より偉いと聞きます。街の景観にずっと責任を負うということだと思いますが、世界一の都市を目指すのであれば、従来の縦割りの行政ではいけないのではないかと思います。

岸井:ではサムさんにお聞きします。実際、ロンドンでは誰がレジブルロンドンを牽引していたのでしょうか。

サム:レジブルロンドンは、ロンドンの交通システムにおいて、徒歩移動を増やそうということから始まったプロジェクトです。それは人々の健康維持においても必要であるという考え方です。また、ロンドンの街を、すべての人にとって良い街にしたいという行政(バラ)の取り組みが始まり、それらがひとつの流れとなって動きました。そして、2015年までにロンドンを世界で一番歩きやすい街にするための活動が起こったことで、予算化されたという経緯があります。

岸井:ロンドンのサインには、20分以上歩くと心臓病のリスクが減りますというメッセージが書かれています。歩くことを推奨しているわけですが、それは単なるサインの役割を超えて、街づくりに対する思いをまずサインから実現していっているという印象を受けます。
日本においても、何をやるべきかを伝えなければいけないと思いますが、東京ブランドを育てるということも含めて、永井さんのお考えをお聞かせください。

永井:行動を促すサインがあるということは興味深いですね。迷っている人を導くだけのサインではなく、5分の距離であることを知らせるというところが一番のアイデアだと思います。5分くらいだったら歩いてみようかなと行動を促すことが可能であるわけです。
街を歩く人が増えることで、経済的効果がありCO2削減にもつながるという話もありましたが、単にサインをつくろうというだけではなく、厳密なリサーチをして、その先にある結果や効果をロジカルに説明できることが大事だと思います。
東京においても健康という考え方はいいと思いますが、できれば何かもうひとつ足して、身近にあるサインで街がこれだけ変わるということをプレゼンテーションすれば、東京都も動くのではないかということをサムさんの話を聞いて思いました。

岸井:実際、レジブルロンドンでは、資金は誰が出しているのでしょうか。

サム:資金は地方政府、東京で言えば東京都、あと民間企業からも出ています。ビジネス・インプルーブ・ディストリクトというプロトタイプをつくろうということを考えました。そしてロンドンの経済的メリットとして何が得られるかというプレゼンテーションにより、TLFもその価値を理解しファンディングを得られました。

岸井:ここで会場の方からの質問にお答えいただきたいと思います。ひとつは、今日議論したことを実際にどうやって実現するのか。またそのためのアイデアはありますかということです。他にデザインの団体がひとつになるべきではないかというご指摘もありましたが、具体化するためのアイデアを田中さんと永井さんそれぞれにお答えいただきます。そしてサムさんには、質問の中から行動の変化が具体的に現れたという調査はされているのかということをお聞きしたいと思います。
またICTについては皆さんにお話していただきたいと思います。

田中:実現しなくてはいけません。始めにICTの話になってしまいますが、アプリを利用することは絶対に必要です。紙媒体を配るという方法も含め、浸透させるための手段はいろいろな方法があると思います。それから一貫性をつくるために、例えばグラフィックのレベルで色だけでも共通にすることも方法のひとつだと思います。ですが、いずれにしても、「やるぞ」という意思が必要で、そのためには気づきが大事であり、この会が気づきの場になると思っています。
それからご指摘いただいたデザイン団体の件ですが、デザイン団体は既にリンクしています。ただし、自分たちにデザインを任せて欲しいということではなく、良いデザインを生み出す仕組みを発信しています。今度、国土交通省でオリンピックのためのナンバープレートが出ます。行政はデザインの必要性を、さほど重く考えていないこともあります。まず気づきを持ってもらうことが大事で、そのためにはこうした活動を繰り返しやっていかなくてはいけないと考えています。
世界一を目指すのであれば、もっと学ばなくてはいけない。できることから始めることも必要ですが、大きなこともやらなくてはいけない。そのために、デザインという力を是非使っていただきたい。誰かが何かをやりたいというのではなくて、質を上げるということを考えなくてはいけない。そう考えています。

岸井:では、永井さんお願いします。

永井:時間は無いとは思いますが、可能性はあると思っています。デザイナーはもちろん、行政の人も、都民もそれは良くなった方がいいと思っているはずです。
ただ、通常はそう思ってもなかなか動かないということがあると思いますが、現在はオリンピックという大きな目標がありますので、シンポジュウムというアプローチからもう少し能動的に行政に働きかけ、次のステップを踏めば、実現の可能性が高まると思います。
ICTについてですが、点と点を結ぶことがICTの機能だとすると、それ以外に興味を喚起することはフィジカルなサインができることだというサムさんの話が印象的だったのですが、プラスアルファの機能をどれだけ盛り込めるかということもフィジカルの場合大切な視点のひとつなのかと思いました。
その一方で、例えばグーグルは世界共通です。使い方がスタンダード化されていて、各国特有の機能もあります。そういう意味では非常にユニバーサルで使い勝手がいいツールであることは間違いありませんので、フィジカルとICTの使い方の掛け合わせをしていくことが必要ではないかと思います。

サム:時間が無いという話ですが、ロンドンではある程度の時間で成果を出すことができました。全部でなくてもいい。ある程度できるという判断も大事であると思います。
私たちはプロジェクトの途中段階と終了時点で様々な調査を行うことにより、時間を有効に使うことができました。そして、オリンピックから3年が経過した現在も、まだまだ調査すべきことはあるのです。
話は変わりますが、東京で地下鉄の表示があり地下に降りると、駅まで750mと表示されていました。私は、地上の景色を楽しみながら歩きたいと思いました。地下は歩きたくないという人もいるでしょう。入り口で表示して欲しいと思いました。

岸井:地域のプラスになることを東京だけではなく全国で展開できるといいのではないかと思います。そういう意味では全国でご活躍の皆様が手をつないで、活動の先頭を切っていただくことをお願いしたいと思います。では、最後にひと言ずつお願いします。

田中:サムさんにお礼を申し上げます。いいお手本を見せてくれたと思っています。
そして永井さんには、今日話されていたようなハードもソフトも含めて東京のブランドであるということを共に訴えていきましょうということをお願いしたいです。

永井:是非一緒にやらせてください。改めてサムさんのプレゼンテーションをお聞きして、踏み出さなければいけないという気持ちになりました。是非、行動に移したいと思います。

岸井:ありがとうございます。それでは最後にサムさんよりエールをお願いします。

サム:本日はありがとうございました。
必ず東京は成し遂げられると思います。これは縦割りを変えるチャンスでもあります。どんどん動かすこと、スタディを進めることで勢いをつけられると思います。資金や協力者も必ず集まるでしょう。
2020年以降、2030年まで見据えることが必要です。皆さんのご活躍をお祈りいたします。


LANDSCAPE DESIGN No.104/2015年10月号掲載(発行:マルモ出版)